おや?親知らず?
- 2023年10月11日
- 院長ブログ
今回は院長コラムをお届けします。
みなさんも一度は奥歯あたりに違和感を感じ
おや?親知らず?っと思ったことはないですか。
親知らずとは
「歯」であることは勿論既に承知だと思います。専門用語では、第三大臼歯(智歯)と呼ばれています。前方から数えて8番目の歯で、一番奥に位置しており、人によっては生えてくるスペースが不足することで、歯肉の中に埋まっていたり、横向きに生えていたりすることがあります。私自身の下の親知らずも、横向きに生えていました(既に抜歯済みです)。
“なぜ親知らずはまっすぐに生えてこないの?”
歯は顎骨(がっこつ)の中から発生し、歯冠(歯の頭)の完成と歯根の形成とともに歯肉から(外の世界に)出てきます。この時に、萌出スペースが不足していれば、完全にまっすぐに出てくることができないために、半萌出や傾斜、完全埋伏といったことが生じるのです。
諸説では、硬いものを食べなくなったせいで顔の骨格が変化したことに起源しているのではないかというヒトの進化論から唱えられています。10年100年スパンの話ではなく、何千年前の×××人の時代には、ほとんどの人がまっすぐに生えそろっていた!みたいな考古学的な推測から言われているものです。顎骨が退化して…と言われていますが、これは実際には退化と言うのでしょうか。近年の若い人では、そもそも親知らず自体が存在しない人も多いと言われており…と、この話はここまでにしておき、この辺りのアカデミックに興味のある方は研究論文を読んで頂ければ幸いです。
“親知らずが痛くなったことはありませんか?”
20歳前後に親知らずが生えてきたタイミングで、歯肉に違和感を覚え、やがては頻繁に痛みを繰り返したり、その痛みや腫れの周期が短期的になってくるケースが多いです。「今までは2~3日で痛みが治ったのに、1週間経過しても治まらず、どんどん痛みが強くなり、歯医者に受診しました!」と言われることが多いですが、そうです、私もその症状を経験した一人です。
歯医者へ受診して言われることは、一つです。
「抜くか、抜かないか。」
もう少し詳しく解説します。必要な検査を行い、抜歯が必要と診断された場合でも初診当日に抜歯を行うことはほとんどありません。痛みや腫れといった炎症状態が強いと、まずは局所洗浄や抗菌薬投与などの消炎処置を行い、症状が軽快した後に、後日改めて抜歯を行います。そもそも炎症が強い場所に麻酔薬を投与しても効きづらく、とても親知らず抜歯が行える状況にはありません。
また、他院へ紹介となるケースも少なくありません。そもそも抜歯自体を行っていないクリニックもありますし、親知らずの抜歯となるとある程度の口腔外科領域の経験が必要となるため、あらゆるリスクを鑑みて大学病院や総合病院へと紹介になります。その親知らず抜歯に伴うリスク評価(紹介が必要か不要か)に必須なのがX線検査になります。パノラマX線とCBCTの2種類があります。
CBCT(コーンビームCT)
コーンビーム、あまり聞きなれないと言葉だと思います。簡単に言うと歯科用のCTです。歯科用と言うとじゃあ医科用のCTは、あの仰向けに寝た状態で大きな円筒の中へ寝台が進み、全身を撮影する大きな装置のことですね!とツッコミが入るかもしれませんが、便宜的に歯科用、医科用と表現をしているだけです。医科用CTも病院歯科口腔外科では頻繁に撮影しますし、コーンビームCTも耳鼻咽喉科ではよく撮影されています。
見たい範囲をより繊細に撮影することができるので、埋伏している親知らずの診断の際には、ほとんどの場合、撮影を行います。
“なぜX線(レントゲン)を取るの?”
少し戻りますが、親知らずの抜歯を行う前に診断のために、パノラマX線とCBCTを撮影することがあります。
パノラマX線は概ね必須に近いかたちで撮影するかと思います。親知らずがどの向きに生えているか、下顎管および上顎洞との位置関係、歯根形態、歯根数、顎骨の形態、骨質、嚢胞・腫瘍性病変の有無などX線検査無しには、リスク評価ができないのです。また、このパノラマX線は2次元の写真になるため、顎骨の頬舌的な奥行きが把握できず、3次元的に映し出すとなるとCT撮影が必要となります。CTを撮ることで、より抜歯に伴うリスク評価が可能となります。
“「神経と近いですねぇ」”
術前のリスク評価として、
下顎骨の中には下歯槽神経動静脈が走行しており、親知らずと下歯槽神経動静脈が近接していることが、よくあります。親知らず抜歯の前には、必ずこの神経動静脈の損傷リスクの説明を行い、同意を得た上で治療に進みます。リスク評価方法は様々あり、winter分類、Pell-Gregory分類やCTによる下顎管の形態(round, teardrop, dumbbell type)などがあります。私が口腔外科の医局に在席をしていた時は、このCTによる下顎管の形態を重視しておりました。Round→teardrop→dumbbell typeにつれて神経麻痺出現の可能性が高くなります。
親知らず抜歯に伴うリスクについて、これまでに国内外において数々の論文が投稿されており、あらゆる観点からリスク評価が実施されています。性差、年齢別、埋伏深度、下顎管との位置関係などの多要因がありますが、実際臨床の場において、個々人の合併症リスクを具体的な数字で表せることは難しいです。文献によっても数字のバラツキがあり、かえって過度に不安を与えてしまう可能性が考えられます。外科処置である以上、合併症のリスクはつきものであり、十分な説明と納得を得られた上で、治療に進みます。
“親知らずは必ず抜歯をしないといけない訳ではない”
完全に歯肉の中に埋まっていたり、上下ともに綺麗に生えそろっていたり、痛みや腫れなどの症状が無ければ、積極的に抜歯は行うことはありません。ただし、矯正治療に伴い親知らずの抜歯を必要とする場合は、症状がなくとも例外的に抜歯を行います。(※矯正治療の一環としての便宜的な抜歯となりますので、原則保険診療では不可となります。)
過去に歯科受診した際、親知らずの抜歯が必要ないと診断された方、特に親知らず自体が骨の中(歯肉の中)に完全に埋まっている方は、少し注意が必要となります。稀にですが、骨の中で歯原性の嚢胞や腫瘍を形成することがあります。これらは歯の発生由来の細胞から生じ、無症状、緩慢に顎骨内で拡大しますので、自覚した際には、かなり大きくなっていることがあります。顎骨内で骨を吸収しつつ拡大しますので、病的骨折につながったり、顎骨膨隆により顔面の整容変化を生じたりすることがあります。これらを未然に防ぐためには、定期的な歯科受診が重要になり、早期発見・早期治療が功を奏します。
リスク説明をするとどうしてもマイナスイメージばかりが先行するのですが、もちろん親知らずが原因で炎症を繰り返すことは、体にとっては負担(ストレス)がかかります。抗菌薬を内服すると一時的に軽快することが多いですが、先延ばしせずにできれば20~30歳代のうちに抜歯することを“おすすめ”します。
当院では幅広い症例に対応しておりますので、
気になることがあれば気軽にご相談ください。