歯の外傷に用心を
- 2023年10月25日
- 院長ブログ
10月に入り、今年もあと3カ月を切りました。
天候が穏やかで、急に涼しくなり、夏の終わりを感じます。
そんな中、秋と言えばスポーツの秋ですね。
ですが、秋にするスポーツって何か想像しますか?少し考えると運動会、スポーツの日としての祝日がありますが、「スポーツの秋」の由来って何でしょうね。気にはなるところですが、今回は歯科領域の外傷について少しだけ述べたいと思います。
“スポーツにはケガが付き物”
多くの人がスポーツ時にケガをした経験をお持ちではないでしょうか。
私が大学病院に勤務していた時代に経験した症例で、スポーツ外傷で下顎骨を骨折し、手術(観血的整復固定術)した症例が2例あります。(※もちろん私は助手です)2症例ともに高校の野球部員で、練習中の事故でした。私が所属していた病院施設でもスポーツに関わる顎顔面領域の重症例が年間1例程度ありましたので、軽症例を含めるとかなりの数のスポーツ外傷が潜在していることが予測できます。近年、プロ野球選手がフェイスシールドやマウスガードを装着している姿を度々目にする機会が増え、スポーツ歯科医学の観点からみると重症化を防ぐ重要な予防策になります。それに加えて、マウスガードに関しては、運動能力、平衡感覚、静的筋力や頭位固定の向上などのスポーツクレンチング効果を発揮すると言われています。現在のところ、野球に関しては、ケガ防止の予防策としてこういったプロテクターの装着義務化はありませんが、他のスポーツにおいては、マウスガードの装着をルール化している場合もあります。マウスガードは、頭部外傷や脳震盪の防止にも効果があると言われていますので、高エネルギー外傷時の頭部への傷害リスクを軽減するためにも、今後装着義務化推奨の流れは進むのではないでしょうか。
こういった経緯から以前、医局内の抄読会にて2018年のジャーナル“Dental Traumatology”の中でスポーツに関連した歯の外傷の予防策確立ついての研究報告のプレゼンテーションを行いました。ちなみに“抄読会”とは自分が読んだ論文の発表会みたいなものです。病院の医局内でよく行われていますが、業務時間外に論文を探してプレゼンの準備となると意外と労力のかかる作業になります。
“こどものスポーツによる歯の外傷の発生率は20%前後”
他の論文でもスポーツによる歯の外傷頻度は10~39%との報告があり、交通事故による歯の外傷頻度より約3倍も高い数字でした。一般論として、子どもが学童期に入ると学校行事や習い事などでスポーツ活動の機会が増加しますので、随伴して外傷リスクも増加すると言われています。ボールや道具が顔面に当たって歯が折れた、欠けたって話を聞いたことはありませんか。私自身、今まで診療で接してきた方々の中には、過去にバスケットボールやハンドボール、サーフィンのボードをぶつけて歯が折れたり、欠けたりしたエピソードを聞いたことがありました。意外と歯の外傷って頻度が高いのだなと印象を受けた記憶があります。これらのスポーツにはマウスガードの装着義務はありませんが、改めて調べてみると推奨はされています。実際、推奨レベルのスポーツでのマウスガードの装着率は低く、論文内においてもハンドボールプレイヤーにおいては約14%という報告がありました。大多数のプレイヤーがマウスガードの必要性を理解しつつも、結果として装着率は低かったという調査データでした。その理由としては、マウスガード装着中に会話がしづらいために試合中のコミュニケーションが取りづらいことが低装着率の要因となり、比較的団体スポーツで装着率が低い傾向にありました。
対応策と予防策は?
実際に外傷が生じた場合、重軽傷の判断がつきにくいことがあると思います。スポーツに関わる外傷は、高エネルギーの衝撃が生体に加わることが多く、表在部だけでなく頭蓋部など眼にみえない部分にダメージをもたらす可能性もあります。ボクシングで顎を強打されると脳が揺れるって聞いたことがあるかもしれませんが、実際、顎に衝撃が加わると脳にまでその衝撃が及ぶことがあります。
“まずは頭部外傷の評価を”
意識障害が持続したり、応答が鈍く、嘔気・嘔吐があったり、いつもと違う様子である場合は、迷わず救急外来へ受診してください。
顎を強打した場合は、顎骨骨折の可能性があります。顎の骨は上顎骨と下顎骨に分かれていますが、上下顎ともに骨折するケースもあります。上顎骨の場合は、頬骨上顎骨複合骨折の頻度が高く、上顎骨は他の骨と繋がっているため、複合骨折の可能性が高くなります。
下顎骨骨折は、開口障害や開閉口路の偏位、咬合異常などの症状がよく出現します。
いずれにしてもCT評価と専門的な処置が必要になりますので、病院口腔外科へ受診して頂くこととなります。ちなみに頬骨上顎骨複合骨折に関しては、形成外科が担当する施設もあります。
歯の外傷では、特に歯牙脱落の場合、
● 乾燥させない
ゴシゴシ洗うのはダメです。健全な歯根膜が剥がれ落ちると、再植予後に関わります。
● なるべく早く歯医者へ受診する
再植が可能となる場合がありますので、上記2点には注意し、対応がわからない場合は、歯科医院へ連絡し指示を仰ぐようにしてください。
歯の外傷についてもう少し述べる予定でしたが、余談が過ぎましたので、またいつか改めて投稿したいと思います。
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